「いい顔してる」という視点を持った話。 | KIK

2021/11/10 17:07


「叢(くさむら)」と聞いてピンとくる人はどのくらいいるだろうか。


正式名称は「叢 - Qusamura」。


広島と東京の世田谷に店舗を構え、一点モノの植物を扱う「植物屋」である。


主宰するのは小田康平さん。


そして、叢が提供する価値、すなわちコンセプトは「いい顔してる植物」だ。


店名の「叢 - Qusamura」は、彼が植物を見つける場所を”くさむら”と呼んでいたことから、ただの草の群がりに見えるありふれたところにも、個性ある美しさが眠っているかもしれないという意味が込められているという。


一度聞いたら頭をついて離れないそんなコンセプトと店名。


実際の店舗には、小田さん自身が日本国中をめぐって出会った「いい顔してる植物」がずらりと並んでいる。


そんな叢の「いい顔してる植物」を、私がはじめて購入したの3年前の2019年4月。


知り合いから叢のことを教えてもらい購入に至った。


盆栽を購入すること自体が人生はじめてで、何を基準に買っていいのかよく分からず。


結局、直感的に「これはいい顔してる」と思ったものを購入した。


部屋に迎えたのは「宇宙の木」というもの。



フニフニとした手触りの不思議な葉を持つ多肉植物だ。


調べたところ、生長は比較的早いが剪定の必要は無く、勝手に風流な造形を作り出してくれることが分かり、宇宙的で不思議な盆栽が楽しめるということから「宇宙の木」と名付けられたんだそう。


卓上に置く程度の大きさの盆栽で、確か7,000円くらいしたと思う。


生長すると下の方になる葉が落ちて、茎の表面が茶色く変わっていった。


これは「木化」と呼ばれるもので、多肉植物の肌が茶色くなり、木のように固くなる現象。


決して、枯れているのではなく、植物が身を守るための自然な現象ということを知った。


経年劣化のような味わい深い表情を見せてくれる。


そして、冬になると葉っぱの先端が今度は「赤色」に縁取られ、花が咲き、意外な一面を見ることができた。


はじめて家の中に迎えた盆栽が、私に様々な一面を見せてくれたのだ。


そしてそのどれもが、いい顔をしていた。


最近、店主の小田さんは「叢の視点 植物の新しい価値観を問う」という本を出版された。


この本の中には「いい顔してる植物」が約40点ほど紹介されている(主にサボテン)。


「命の火が今にも消えそうなサボテン」


「突然変異の権化であるような奇妙なサボテン」


「アフリカの民具や神具にも見える不思議なサボテン」


「畑に植えられっぱなしの親木と呼ばれるサボテン」


どれもが普段は見向きもされない植物たちだ。


しかし、そんな植物が懸命に生きている姿に「美」を感じられる特別な一冊となっている。


今改めて思うに、叢と出会うことができて最もよかったことは「いい顔してる」という視点を獲得できたことだ。


散歩をしている最中に見つけた草花。


河原に無造作に転がる石群。


森の中に立ちそびえる木々。


遠くから見ればどれも同じに見えるかもしれない。


でも、近づいてみると一つとして同じものはないし、よくよく見れば「これはいい顔をしてるかも?」と思ったりもする。


個人の感じ方なので思う思わないは人それぞれだろう。


しかし、個人的に思うに、こういう視点を持っていると結構世界の解像度が上がる気がするのだ。


(写真・文 Tanaka Shingo